冷たい水で顔を洗い、濡れた肌を拭いたフリオニールは心地よさに小さく安堵のため息をついた。ささやかな休息に、疲れていた気持ちも入れ替わる。
そしてティーダはどうしただろうと顔を上げるが、瞳に飛び込んだ風景に、思わず彼の名を呼ぶ声を飲み込んだ。
見つけた泉で同じように休憩をしていたティーダの表情がいつもと違う。
どんな表情を浮かべてもどこか明るい雰囲気のティーダだったが、今は声をかけるのもためらうような真剣な顔。
彼の瞳は尽きる事無く澄んだ水を湛える泉を見つめているのに、もっと、どこか遠くを――ここではないどこかを見つめていた。
何か見えない力が彼を包んでいるような、神秘的とも表現できる雰囲気を察し、フリオニールは黙って彼を見守る事しかできずにいた。
「…あれ? フリオ、顔洗い終わったんスか?」
どれぐらいそうしていたのだろう。風に揺れる木立の音で現実に戻ったのか、ティーダははっと気づいてフリオニールを振り向いた。その顔は、いつも通りのティーダだ。
「口もゆすいで顔も洗ってすっきりしたから、いつでも動ける。…いいのか?」
「なにがッス?」
「考え事、してただろ」
告げるとティーダは「あ、やっぱり」という顔をする。
「悪い、待たせちゃったかな」
おどけたように苦く笑いながら、ティーダは自分の頭をかいた。すまなさそうにしているが、やっぱりいつものティーダだ。
だからこそ、先ほどまでの表情には何かあったのだろうという事が分かってしまう。
「気にするな。誰でも思う所はあるだろう」
「なんか思い出しかけてたんだ。こんな光景をどっかで見た事あるっていうか…覚えてるけど、それがいつだったのかとか、思いだせなくって。大切な事だって、どこかで分かってるんだけど…」
「クリスタルを手に入れる為に急ぐ事は急ぐが、だからと言って何か手がかりがある訳じゃない。気が済むまで見てて構わないぞ」
「んー…でも、きっと全部終わったら思い出すだろ。だから今はいいッス」
「ティーダ…無理するなよ?」
誰だって気になっている事を思い出せないもどかしさを抱えるのは嫌なはずだ。
やせ我慢をしているような痛さをティーダから感じ、フリオニールは静かに問うた。大切な仲間や友人が失われた記憶の中から彼を呼び戻そうとしているのならば、思い出してやるべきだろう。
それに対して返ってきたのは太陽の笑顔だった。
「平気平気! それに、今、俺の名前を呼んでくれるのはフリオニールだもんな!」
『記憶が戻ったら離れ離れになるかもしれないから。だから今を大切にしたいんだ。皆を、俺を呼んでくれるフリオニールを忘れたくない』
ティーダが飲み込んだ言葉を知らず、何かを感じながらも上手く言葉にできないフリオニールは、ただ静かに微笑む事しかできなかった。
「あ。フリオ、ちょっと、かがんで」
フリオニールの気遣いなどまるで気づかないティーダはちょいちょいと手招きを始めた。何だろうと思いつつ上半身を屈めると、ティーダの顔が近づいてくる。顔はフリオニールの唇の横をすり抜け…。
「っ…!!!!!」
「拭き残しみっけ。水も滴るいい男、ッスね」
耳の下をぺろりと舐められ、反射的に体を引いて真っ赤になったフリニールをティーダは陽気に笑った。
「ごちそーさまでした!」
DFFはラストがああだから、前向きポジティプなティフリでも、どこか少し切ない感じ。
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- 2009/10/02(金) 00:13:00|
- ディシディア|
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