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ジタンを見つけたクジャは急降下。彼は身にまとった白布をはためかせながら、風に遊ぶ花弁を思わせる美しさでジタンの前に舞い降りた。
突然の来訪を予想もしなかったのだろう、ジタンは慌てて自分の身体の後ろに何かを隠す動きを見せ、一、二歩後ずさる。
「会いたかったよジタン。…今、何を隠したんだい、随分と大切そうだね?」
「な…なんでもねえよ」
まるで愛の言葉でも口にするかのようにうっとりと囁いたクジャに対し、じりじりと足を後ろに引くジタンは一刻も早くこの場から立ち去りたい様子。仲間や大切な者達が関係している場合はともかくとして、個人対個人の場合は懐の広さを表すように余裕ありげな表情を浮かべるジタンにしては、珍しい反応だ。
彼の慌てぶりを目に止め、ふふんと笑ったクジャは髪をかきあげた手を降ろさずに、そのままジタンの方と細く白い指を差し出した。優雅と言えば優雅だが、随分と計算されて芝居がかった動作がジタンの青い目に映りこむ。
「おかしいな、ボクに渡すものがあるんじゃないのかい?」
もう片方の手を軽く握り、唇のすぐ近くに持っていったクジャは、残忍でいて楽しそうな薄い微笑みを浮かべていた。
「おまえにやれるもんなんか持ってないって、そんなに絡むなよ」
「へぇ…キミとボクとの仲なのに、随分とつれないじゃないか」
言うが早いかクジャはジタンの脇をすり抜けるように接近、背後に回っていた相手の上腕部を掴むと勢いよくひねり上げた。その弾みにジタンが隠していたものが手から零れ落ち、クジャは残った手で素早くその物体をキャッチする。
同時に彼はジタンの手を解放し、手の届かぬ距離まで離脱すると、優美なカーブを描いてから空中で止まった。視線は手の中に捕獲した、リボン付きの小さな箱へ注がれている。
ジタンは歯軋りをして、むしりとられた箱を我が手に奪還せんと襲い掛かる距離を測っているが、そんな事などお構いなしのクジャの目尻は上がり、実に満足そうな微笑みを浮かべていた。
「なんだ、やっぱり持ってるじゃないか。素直じゃないね…じゃあこれはもらって行くよ。ホワイトデーには三倍返しのホーリを用意しておくよ、期待しているがいい」
飛び出したジタンの掴みかかる手を余裕ですり抜けたクジャはふわりと高く宙に浮き、そのまま高笑いだけを残して逃げ去ってしまった。
「待てよ、おい! それはティナからもらった大切な――」
大声で叫ぶも、ジタンの声はもうクジャまで届かない。クジャが消えた場所にくすぶっていた黒炎も空に溶けるように収束し、追っ手のかけようがなかった。
舌打ち一つしたジタンは顔を曇らせて頭を掻いた。
「ティナに…謝ってくるか」
歩き出したジタンがしばらく行くと、目的の姿がすぐに目に入る。
「どうしたの、ジタン? そんな暗い顔して」
いつも陽気でくだけた感があるジタンが珍しく渋い顔をしている事に、さすがのティナも気づいたようだ。ジタンは小さく肩をすくめてから、素直に頭を下げた。
「ごめん、ティナ。さっきもらったチョコなんだけど…クジャにぶんどられた」
嘘はつけないが、正直に言ってしまったらがっかりされるだろうな、レディからもらった心の篭ったプレゼントを守れないとは情けない、ティナには心底悪かった…と、クジャ登場の直前まで浮かれていたジタンは反省しきり。
しかしティナは僅かな間キョトンとしただけで、すぐにくすりと笑った。
「ぶんどるのは盗賊の専売特許なのに、お株を奪われたからそんな顔なのね。あのチョコはね、ケフカからもらったものだから、気にしないで」
ティナがわざわざ自分の為に選んだものではなく、ケフカからの流用品だった事にいささかショックを受けるジタンであったが、不器用そうなティナの事を考えればそれも仕方があるまい。こういう時は相手に対して即座にフォローを入れる事が重要であり、好感度を上げるポイントと知っているジタンはすぐに口を開いた。
「でもさ、作った奴が誰でも、オレがもらったのはティナの気持ちが『ぎゅっ…』と詰まったチョコに変わりはないだろ」
「義理っていうものが果たせたなら、私はそれでいいの。そういった所はちゃんとしなきゃダメですよって、コスモスが言ってたの。そういう愛の形もあるんだって」
はっきり面と向かって義理と言われたジタンは益々落ち込むのだが、愛というものを知らぬティナには彼の落ち込む理由はついぞ分からず。
そしてまた、ケフカ特製の「プレゼントforティナ」チョコを食べたクジャはその後しばらく謎の失踪を遂げるという事も、今の時点では誰も予想しないのである。
ケフカ特製チョコは幻獣ハーフには胃に優しくおだやかに効く成分配合。しかしジェノムには超肌荒れとか起こしそう。クジャは吹き出物が一個出ただけでも部屋に篭りそう。