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リディアの愛くるしい唇から、うっとりとした小さなため息がこぼれた。
夢見る少女が見つめる視線の先には純白の衣を身に纏った美しい女性。苦難の末に愛した男と結ばれる日を迎えた世界で一番幸せな女性はいつにも増して輝き、リディアはその姿に見惚れていた。
「ローザ、本当にキレイねー…」
「まあ、花嫁だもんな」
リディアの傍にいるはずなのだが、彼女がローザに見とれるあまりにまるで空気なエッジは生返事で同意し、しかし直後に目元を引き締めて『おまえだって負けてないぜ』というここ一番の殺し文句を口にしようとした。
エッジにしてみればリディアを口説く絶好の機会であったのだが、不運な事に彼よりも、割り込んできた声の方が一瞬早かった。
「そうじゃろう、そうじゃろう。ここにくるまでどれだけ苦労したことやら」
「シドがこの婚礼の段取りをしたんだもんね、お疲れ様。ローザもセシルもとっても幸せそうだね」
祝いの席だろうとお構いなしにむさ苦しいヒゲ面のおっさんは、うんうんとうなずいている。我が子同然の二人の結婚を、誰よりも祝っているのはこの男であろう。多少やつれたものの、とても満足そうに笑っている。
王不在のバロンにあって不安や悲しみにうちひしがれる者は少なくはなかった。そんな者達を叱咤激励し、この日を迎えることができたのは、一重に彼の働きのおかげであり、来賓の者達の送迎も彼がやったのだから、まさに八面六臂の奮闘振りと表現できよう。
「あのドレスもどれだけ苦労したことやら」
「シドってドレスも縫えるの!?」
目を丸くするリディアの前で、シドは腹を揺らして笑ってみせる。エッジはと言えば、シドを恨みつつもタイミングを失って傍観者になり下がるばかりだった。
「帆を縫う事はあってもさすがにドレスはムリじゃわい。ワシが苦労したのはあのドレスのデザインじゃよ」
「あのドレスをデザインしたのはシドなんだ。素敵なドレスよね。派手すぎないで上品で、ローザにぴったり。私の服のデザインもお願いしたいな」
「んー、ちょっとそれも違うかの。ローザを止めるのに大変だったんじゃよ。なにせローザはあのドレスに、セシルの鎧とお揃いで角を付けるつもりじゃったからの」
「そう言えば普段のローザの肩にも角、付いてたよね。…ローザが角好きだなんて、知らなかった」
「動物のそれならともかく、人が角を付けるなんちゅうのは大抵は威嚇のためじゃろう。花嫁がそんな物騒なドレスを着るもんじゃないと説き伏せるのにどれだけ大変だったか…その努力の結晶があれじゃよ」
腕を組んで得意そうなシドは再びうんうんと頷きながらリディアと共に、優しく暖かなローザの魅力を最大限に引き出しているドレスをまとった花嫁を見守っている。
角がついた花嫁衣裳はそれはそれで斬新なデザインであり、一人の男の妻となると同時に王妃となるローザは新たな時代のファッションリーダーになったかもしれない。が、しかし、やはり角付きというのはないだろう。ただのドレスではなく、なにせ婚礼の為のドレスなのだから。
どこにつっこんでいいのか分からぬままで口にこそしなかったものの、内心でリディアはシドの働きをそれはそれは高く評価したのであった。
そして二人の会話を聞いていたエッジは、彼の国に伝わる花嫁装束の別名を思い出し、一人納得した。
「あれが本当の角隠しってやつか…」