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セシルと目が合うとリディアはやっぱりそっと顔を背けてしまう。
仕方が無い、あれだけの事をしたのだからと諦めていた。
暗黒の力を体現したこの姿を見れば、悪夢のような光景を嫌でも思い出すだろう。
負い目や償いという意味ではなく、純粋な意味で幼い少女の笑顔を見たいと思っても、彼女の心を傷つけた咎人である自分には叶わない夢だった。
が、事情を知っていてもやはり気になるのだろう。他人の心境を敏感に感じ取る能力が非常に高いギルバートはリディアの様子に気づいたようで、セシルに話しかけてきた。
「君達の間に何もなかったとしても、ちいさな女の子から見ればセシルの格好は威圧感を与えてしまうからね」
「しかし…君達を守る為にも、この格好をやめる訳にもいかない。君達に攻撃が届かないように僕が前衛に立つには、この装備は必要だ」
「そうだね、僕もリディアもセシルには感謝してるんだ。でもせめて、兜のツノだけでも何とかならないかな? 甲冑の色はどうしようもないから、できるだけ怖い部分を排除したらどうだろう。見た所、その部分は取り外しできるみたいだし」
うなずいたセシルは兜のツノに手をかけた。軽く手をひねると同時にぱきんと小さな音が響き、極太の棘のようなツノがセシルの手の中に収められた。
「うん、フォルムが丸みを帯びて、前より良くなった。この調子で兜の角を全部外してごらんよ」
「…でもこれは…ないと困るんだ。僕としてもこれを外した方が通気孔ができて涼しいんだけれど」
「無防備なその穴を弓矢で狙うにしてはあまりにも小さな的だし……重心が変わってバランスが取れないとか?」
「いや違う。これはただの飾りじゃないから、なくしたら困るんだ」
不思議そうに首を傾げるギルバートの前で、セシルは角を持ち直すと黒光りする先端を自分の首の辺りへ押し当てた。鋭く尖った先端は甲冑と甲冑の継ぎ目へと潜り込み、鎧の下に着込んでいるぴったりとしたスーツの布越しにセシルの素肌に到達している。
「ほら、僕は指先まで甲冑で覆われてるから、指が入っていないだろう? おまけにこの鎧は簡単に脱げないから、かゆくなった時なんかにはこうやって掻くんだよ。角の一本一本の太さと角度が微妙に違うのは、鎧のパーツの隙間の角度に合わせてそれぞれ背中用や膝の裏用なんかがあるからなんだ。角を外した所に穴が空くのは頭がかゆくなった時用。割と蒸れるんだ、この鎧」
「うーん、荷物袋の中にしまっておくのは嫌かな?」
「荷物として持ってると、必要な時にすぐ見つからないんだよね。ほら、普段使わないアイテムを珍しく使おうと思ったら、カーソルでずーっとスクロールさせなちゃいけなくって、それでもすぐに見つからない事ってあるだろう? 焦るあまりに間違ったアイテムを使って、うわあ!って言ってしまったり。急いでいるのに、急いでるからこそ苛々も募る。痒い時って本当に我慢できないからね」
そんな会話を遠くから聞いていたリディアは、ゴツすぎる位ゴツイ暗黒騎士の鎧の中身が想像以上に血の通った、あまりにもベタな人間であると知り、かゆいのにも関わらず、なぜかクモの糸なんかを握っているセシルが頭に浮かんだ。
かゆいのに、体が思うように動かなくて七転八倒というマヌケな姿の暗黒騎士は怖さもなにもあったものではない。
うん、全然、怖くない。
そんな男が仇だとか思いたくない光景だ。
子供特有の逞しい想像力のおかげか、はたまたセシルの誠意が伝わったのか、この一件以降、リディアは徐々にではあるがその態度を軟化させていった。
しかし本当の理由は永遠に闇の中、リディアだけが知る真実である。