「男ばかりのむさい所帯じゃなくて色気があるのは結構だが、あんな女ばっかり目にしていると自分の感覚ですらもおかしくなっちまいそうだな」
ジェクトのぼやきを受けて、彼が見ている先へと目を向けたゴルベーザは成る程と納得した。ふわふわと漂いながら視線の先を横切ったのは、ほぼ全裸に等しい暗闇の雲。
彼女はほんの些細な覆いをまとっているものの、豊かな胸も魅惑的な尻もしなやかな脚も惜しむ事なく人目に晒し、動きの一つ一つもなまめかしい。バルバリシアのような妖艶な部下を持っていたゴルベーザはとっくにその辺りの感覚は麻痺してなんとも思っていなかったのだが、ジェクトにしてみれば少々目に余る格好のようだ。
そんな一般的な男性の感覚を持つジェクトこそがまともな証拠であり、他の者があまりに異常なのだと感じるゴルベーザではあったが、通過する女の姿にふと疑問が浮かび、暗闇の雲を呼び止めた。
「なにか用か」
どこか得体の知れない不気味さをかもし出す暗闇の雲は感情というものが備わっていないのか、振り向く顔はいつでも無表情だ。少なくとも、バルバリシアのように己の美しさに絶対の自信があるからこそ肢体を見せ付けているような素振りはない。かと言ってあの格好が合理的という訳でもなさそうだ。
「一つ尋ねたい事がある。おまえに性別はないはずであろう。それがなぜ、そのような格好を取っているのだ?」
「…いつだったか、神に最も近いと言われた賢者に尋ねた事がある。おまえが真に恐れるものはなんだ、と。そうしたら女という答えが返ってきた。それ以来この姿を取っている。形などわしにとっては無意味だが、どうせ取るのならば最も恐怖を覚えさせる姿がいい」
それを聞いたジェクトは「賢者は男だったんだな。いつの時代、どこの世界でも一番怖いのは女って事だな」とにやにやしながら呟いた。どんな大賢者や聖人であろうとも男である以上、堕落させるものは女だと理解したのだろう。
しかしゴルベーザはそうは受け取らず、「怖いというよりも、『まんじゅう怖い』ではないのだろうか…」と考えるのだった。
暗闇の雲は色々知らなさ過ぎてコロリと騙されそうな気がする。
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- 2009/03/07(土) 00:30:48|
- ディシディア|
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