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おかしいな、一緒に飛ばされてきたんじゃないのかなと首をひねりながらバッツは障害物の多い大地を歩く。
「ボコ~、おーいどこ行ったんだ~?」
周囲をきょろきょろしながら歩みを進めて行くと、物陰にいるチョコボの尻をやっと見つけて安堵したように駆け寄った。
だが、近づけばボコの前に誰かが立っているではないか。
よく見ればウォーリアオブライトがボコの頬の辺りに手を突っ込んで、顎の下から目の横にある耳の辺り一帯を掻いてやっているようだ。チョコボに限らず鳥は自分の足が届きにくい頬を掻いてもらうのが大好きなせいか、ボコは目を閉じてうっとり顔でライトの手に身を委ねている。
「ボコ、探したぞ。ライトに掻いてもらって気持ちいいのか、まったく呑気な奴だな~」
「これはバッツのペットか。随分と大きな鳥だな。羽の艶もあって美しいものだ」
「ペットじゃなくって、こいつは親友! …もしかしてライト、チョコボを知らないのか?」
「私の世界にはこんなに大きくて立派な鳥は存在しない」
驚くバッツの言葉を受けたライトは気持ちよさそうなチョコボを振り仰ぎ、堂々とした体躯の鳥を眩しそうに見つめる。
「こいつは飛べないけど、その代わりに馬みたいに乗って走れるんだよ。あれ、フリオやセシルはチョコボを知ってたけどなぁ?」
「私は彼らよりもずっと古い世界の人間だから、そのような事があるのかもしれない。他の者達に共通しているものが、私だけ欠けている事が多いようだ」
「へぇ~、世界が違うとそんなに違うのか。そういやクラウドの世界には海や山を渡れるチョコボもいるっていうし、基本的にこいつらは飛べないけど、飛べる黒チョコボやMPを回復してくれる白チョコボなんていうのもいるらしい。神の鳥なんて呼ぶ世界もあるってさ」
「穏やかな気性のようだし、随分と人と近い存在なんだな。ん?」
バッツと喋りながらもボコの頬を掻いていたライトに向かい、ボコが急に背中を向けた。どう言う事だろうかとライトが考える間もなく、バッツが一言。
「乗っていいってさ」
「…確かに鳥にしては足も太いが、本当に乗れるのか? 私は鎧を装備した身だぞ」
ボコの気持ちを通訳したバッツを驚きの表情で振り返ったライト。自分の胸に手を当て、軽装なバッツとは桁違いに頑丈な鎧を纏った己の恰好を告げるが、彼は天真爛漫な笑顔を顔いっぱいに浮かべていた。
「だいじょーぶ! ボコが俺以外を単独で乗せるって珍しいんだぜ、この際だし、乗っけてもらいなよ。ほっぺた掻いてくれたのと、さっき美しいとか立派な鳥って褒めてくれたお礼だってさ」
うろたえるライトに向かい、ちらちらと視線を送りながらもボコは彼の騎乗を待っている。そのボコに近寄ったバッツは相棒の首筋を撫でながら、ライトを誘うように残りの手を突き出した。
「ボコはやる時はやるけど、別に怖くないよ。1,2の3で乗って、ほら、ここ掴んで…あんまりきつくやると怒られるからな」
ボコの背中に恐々とまたがるライトに乗り方を指導してやると、いっちょまえのチョコボライダーの完成だ。数歩下がったバッツはどこかぎこちないライトの姿を見て、嬉しそうに手を叩いた。
「クエッ!」
まるでその拍手が合図だったかのように、高らかに一鳴きしたボコは張り切って走りだす。
「うわ!」
「危ない!」
ボコが急に走り出すとは思わなかったのだろう。ライトは突然の動きに対応できず、一瞬後には見事に振り落とされて地面に尻餅をついていた。
「いてて…」
「大丈夫か、ライト」
「ああ、少し尻を打ったが…随分と威勢のいい鳥なんだな。もう見えなくなってしまった」
「ちょっと張り切っちゃったかなー…。あいつ、悪気はないんだ」
痛みに顔をしかめたライトに手を差し出したバッツではあったが、実際に手を取ってライトが立ち上がると堪えきれないように笑い出した。ライトは笑われた事に対して気を悪くした様子もなく、困ったような笑顔を浮かべて、肩をすくめる。
普段は柔らかい表情を浮かべる事が少ないライトのそんな姿を目にしたバッツはまだ笑いの余韻を残しながらも口を開き、素直に謝った。
「ごめん、おかしかったってのもあるんだけどさ、ライトって何だか完璧すぎてちょっと近寄りがたかったんだ。今ので見方が変わったよ。ボコには感謝しなくっちゃな」
「確かに、他の者は私を少し異質な存在として見ているようだ。だが実際には皆が乗りこなすチョコボ一つ満足に乗りこなせないような人間だ。乗れないから異質なのかもしれないな」
「それも個性だけどさ、気になるなら特訓しようぜ。元の世界に戻れるまでどれだけの時間があるか分からないけど、ここで顔を合わせたのも何かの縁だしな」
「それは面白そうだな。…一時はどうしてこんな所に来たのか分からずにいたが、多分こう言う意味もあったのだろうな」
「え、チョコボに乗れるようになれって事か?」
「…いや、違うが、取りあえず今はそう言う事にしておくか。――さて、私が華麗なチョコボライダーになるべく、バッツにもボコにも協力してもらわねばな」
「そうこなくっちゃ!」
微笑むライトの意図は分からないままだったが、バッツは満面の笑みを浮かべて力一杯頷いた。
生まれも世界も違うけれど、自分達は一つの場所に集められた。ライトは使命感を強く感じていたが、バッツは「きっとこれは面白くて素敵な事だ」と信じて疑いもしていない。それがこの男のいい所であり、とかく真剣に考えがちなライトの気持ちを軽くしたという事には、まだ本人はちっとも気づかないでいる。