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暗い空の下、ひとしきり叫んだ後でティーダは立ち止まり、心の整理をつけようと目を閉じて深呼吸をした。後から歩いてくるフリオニールの足音が近づいてくる――その音がすぐ傍まで来た瞬間、顔を上げたティーダは振り向いた。
「オヤジに会ったんだろう、フリオ。その――どう、だった? 強かったとかじゃなくってさ、もっとこう…」
「…俺には両親がいない。どう、と言われてもよく分からないが…いい親父さんだと思った。不器用で照れ屋だからうまく立ち回れないが、ティーダが自分と同じ力を身に付ける事を待ち望んでいる、そんな風に感じた。自分の成長をそんな風に思ってくれる人がいるっていうのは、羨ましいな」
「そっか…羨ましい、か。…恥ずかしいオヤジだけどな」
「恥ずかしいとはどういう事だ?」
「フリオはオヤジと一戦交えたんだろう?」
「そうだが、それがどうした?」
「あのさ、技出す時になんか叫んでなかった?」
「それは俺達も一緒じゃないのか? 実際にはキャプションが出るからそれで代用されているが」
「技の名前にいちいち自分の名前をつけるって所がめちゃめちゃ恥ずかしいんッス。ジェクトフラッシュにジェクトフィンガーにジェクトストリーム、おまけに『ジェクト様シュート3号』とか、その上を行く『雄大かつ素敵なジェクトシュート3号』ってのまであるし!」
顔をしかめながら頭をかきむしるティーダの心底嫌そうな言葉を聞いて、やっとフリオニールは事情を飲み込んだ。
「それは…確かに恥ずかしい父親だ」
「だろ! 俺もう、あれがイヤでイヤで…。マッチョな身体を見せ付けんばかりの格好だし…似合わないのは分かってるけど、俺としてはせめてマトモな服ぐらい着て欲しいんっス!」
肩をすくめて頭を左右に振ったティーダに、さすがのフリオニールも納得したようだ。全ての技に自分の名前をつけているとはなんて自己主張の激しさだと、改めて呆れてしまう。身内にそんなヤツがいたらと思うと、ティーダの反抗心がとてもよく理解できた。
これがオニオン位の年頃の子供ならば自己主張も可愛いで済むのだろうが、相手は30をとっくに越している大柄で筋骨隆々な野性味溢れるおっさんだ。強さと自信に裏づけされているからこそ技名にも己の名を付けているのだろうが、ティーダからしてみればそんな男が父親であるのだから、ジェクトの俺様っぷりにうんざりせざるを得ないだろう。
そのあたりを理解して内心でうんうんと頷いたフリーニールではあった。だがしかし、ふと「俺はもしかして、親子ののろけを聞かされているのだろうか」と気づくのだった。
そんな二人を高台から見つめる男が一人いた。漆黒の魔人、ゴルベーザ。彼は嘆くティーダの姿を見ながら、誰ともなしに一人呟いた。
「ジェクトよ…導く云々はひとまず横に置いておくとして、おまえが思うよりもずっと息子との壁は薄いようだぞ」
おかしいな、一緒に飛ばされてきたんじゃないのかなと首をひねりながらバッツは障害物の多い大地を歩く。
「ボコ~、おーいどこ行ったんだ~?」
周囲をきょろきょろしながら歩みを進めて行くと、物陰にいるチョコボの尻をやっと見つけて安堵したように駆け寄った。
だが、近づけばボコの前に誰かが立っているではないか。
よく見ればウォーリアオブライトがボコの頬の辺りに手を突っ込んで、顎の下から目の横にある耳の辺り一帯を掻いてやっているようだ。チョコボに限らず鳥は自分の足が届きにくい頬を掻いてもらうのが大好きなせいか、ボコは目を閉じてうっとり顔でライトの手に身を委ねている。
「ボコ、探したぞ。ライトに掻いてもらって気持ちいいのか、まったく呑気な奴だな~」
「これはバッツのペットか。随分と大きな鳥だな。羽の艶もあって美しいものだ」
「ペットじゃなくって、こいつは親友! …もしかしてライト、チョコボを知らないのか?」
「私の世界にはこんなに大きくて立派な鳥は存在しない」
驚くバッツの言葉を受けたライトは気持ちよさそうなチョコボを振り仰ぎ、堂々とした体躯の鳥を眩しそうに見つめる。
「こいつは飛べないけど、その代わりに馬みたいに乗って走れるんだよ。あれ、フリオやセシルはチョコボを知ってたけどなぁ?」
「私は彼らよりもずっと古い世界の人間だから、そのような事があるのかもしれない。他の者達に共通しているものが、私だけ欠けている事が多いようだ」
「へぇ~、世界が違うとそんなに違うのか。そういやクラウドの世界には海や山を渡れるチョコボもいるっていうし、基本的にこいつらは飛べないけど、飛べる黒チョコボやMPを回復してくれる白チョコボなんていうのもいるらしい。神の鳥なんて呼ぶ世界もあるってさ」
「穏やかな気性のようだし、随分と人と近い存在なんだな。ん?」
バッツと喋りながらもボコの頬を掻いていたライトに向かい、ボコが急に背中を向けた。どう言う事だろうかとライトが考える間もなく、バッツが一言。
「乗っていいってさ」
「…確かに鳥にしては足も太いが、本当に乗れるのか? 私は鎧を装備した身だぞ」
ボコの気持ちを通訳したバッツを驚きの表情で振り返ったライト。自分の胸に手を当て、軽装なバッツとは桁違いに頑丈な鎧を纏った己の恰好を告げるが、彼は天真爛漫な笑顔を顔いっぱいに浮かべていた。
「だいじょーぶ! ボコが俺以外を単独で乗せるって珍しいんだぜ、この際だし、乗っけてもらいなよ。ほっぺた掻いてくれたのと、さっき美しいとか立派な鳥って褒めてくれたお礼だってさ」
うろたえるライトに向かい、ちらちらと視線を送りながらもボコは彼の騎乗を待っている。そのボコに近寄ったバッツは相棒の首筋を撫でながら、ライトを誘うように残りの手を突き出した。
「ボコはやる時はやるけど、別に怖くないよ。1,2の3で乗って、ほら、ここ掴んで…あんまりきつくやると怒られるからな」
ボコの背中に恐々とまたがるライトに乗り方を指導してやると、いっちょまえのチョコボライダーの完成だ。数歩下がったバッツはどこかぎこちないライトの姿を見て、嬉しそうに手を叩いた。
「クエッ!」
まるでその拍手が合図だったかのように、高らかに一鳴きしたボコは張り切って走りだす。
「うわ!」
「危ない!」
ボコが急に走り出すとは思わなかったのだろう。ライトは突然の動きに対応できず、一瞬後には見事に振り落とされて地面に尻餅をついていた。
「いてて…」
「大丈夫か、ライト」
「ああ、少し尻を打ったが…随分と威勢のいい鳥なんだな。もう見えなくなってしまった」
「ちょっと張り切っちゃったかなー…。あいつ、悪気はないんだ」
痛みに顔をしかめたライトに手を差し出したバッツではあったが、実際に手を取ってライトが立ち上がると堪えきれないように笑い出した。ライトは笑われた事に対して気を悪くした様子もなく、困ったような笑顔を浮かべて、肩をすくめる。
普段は柔らかい表情を浮かべる事が少ないライトのそんな姿を目にしたバッツはまだ笑いの余韻を残しながらも口を開き、素直に謝った。
「ごめん、おかしかったってのもあるんだけどさ、ライトって何だか完璧すぎてちょっと近寄りがたかったんだ。今ので見方が変わったよ。ボコには感謝しなくっちゃな」
「確かに、他の者は私を少し異質な存在として見ているようだ。だが実際には皆が乗りこなすチョコボ一つ満足に乗りこなせないような人間だ。乗れないから異質なのかもしれないな」
「それも個性だけどさ、気になるなら特訓しようぜ。元の世界に戻れるまでどれだけの時間があるか分からないけど、ここで顔を合わせたのも何かの縁だしな」
「それは面白そうだな。…一時はどうしてこんな所に来たのか分からずにいたが、多分こう言う意味もあったのだろうな」
「え、チョコボに乗れるようになれって事か?」
「…いや、違うが、取りあえず今はそう言う事にしておくか。――さて、私が華麗なチョコボライダーになるべく、バッツにもボコにも協力してもらわねばな」
「そうこなくっちゃ!」
微笑むライトの意図は分からないままだったが、バッツは満面の笑みを浮かべて力一杯頷いた。
生まれも世界も違うけれど、自分達は一つの場所に集められた。ライトは使命感を強く感じていたが、バッツは「きっとこれは面白くて素敵な事だ」と信じて疑いもしていない。それがこの男のいい所であり、とかく真剣に考えがちなライトの気持ちを軽くしたという事には、まだ本人はちっとも気づかないでいる。
「セシル、ちょっと聞きたいんだが」
セシルと二人でお茶を飲んでいたカインは読んでいた雑誌から顔を上げ、向かいの友人へと声をかけた。
「なに?」
椅子から腰を浮かして差し出された雑誌を覗き込んだセシルに向かい、カインが指さしたのはディシディアの特集ページ。セシルの特性が記載されている記事だった。
「これ、『聖騎士セシルは空中戦が得意、技はセイントダイブ』って。おまえが空中戦が得意だというのは今まで聞いたことなんてないし、ダイブっていうのも俺のジャンプに似ている気がするんだが。武器も剣や杖というよりは槍のようだし、俺のモチーフが混じってないか?」
「あ、うん、ごめん。勝手に借りたんだ。ほら、おまえはタイトルロゴにまでなってたけど、今回ディシディアに出るのは僕と兄さんだけだから、何とかおまえの存在をアピールしたいって言うか、要素をねじ込みたくってさ。だから聖騎士スタイルではおまえの動きを使えるようにしてもらったんだ。一応バレないように技の名前は変えたんだけど、やっぱり分かったか」
元の席に腰を下ろしたセシルはカインの指摘に悪びれた様子もなく、しれっとしている。
「バレたかって…FF4のプレイヤーは、もうこれセシルじゃなくって中身はカインじゃね?って思ってるぞ」
「別にいいよ。カインと一心同体だと思われるのはむしろ歓迎だ」
「そう言う話では…」
「おまえの評判を落とさないためにもしっかり戦ってくるよ、大丈夫。カインの技で兄さんをぎったんぎったんにできるのかと思うと今から楽しみなんだ。兄弟喧嘩って一回ぐらいはやってみたいし」
「後で恨まれるのは俺なんだが」
「僕とカインとの技で攻撃されて怒り狂う兄さんが見れるなんて嬉しいなぁ」
「いつからそんなに腹黒くなったんだ、おまえ。聖なる愚者、姑息な策略とは無縁の馬鹿正直という印象がズタズタだぞ」
「おまえが二度目に僕を裏切った時かな。おまえが僕より兄さんを選んだのが悪いとは言え、そんな風にそそのかしたのかと思い出すとね、こう…一発殴ってやりたくなるじゃないか」
にこやかなセシルではあったが右手はしっかりと拳を握っている。どうやらふざけているのではなく、本気のようだ。
確かにセシルは裏切ったカインを責める事もなく、ゴルベーザが正気に戻ったが故に勝負する機会もなく、胸中ではもやもやしたものを抱えていてもおかしくはない。複雑な事情と軋轢のある兄弟だけに、一発殴ってお互いすっきりできるのならそれに越した事はないが…。
「確かに本編ではあの後、ゴルベーザを一発殴る機会はなかったな」
「おまえの技で兄さんがダメージを受けるのも、それでおまえが恨まれるのも、そっちの責任。僕は守るべきものの為に戦うだけだよ」
にっこりと微笑むセシルの表情を見たカインは、だったら人の技なんで真似してくれなくてもいい、無理やりディシディアに俺の要素をねじ込まなくっていいからと言いたいものの、そんな事を言えない自分の立場を恨めしく思うしかできないでいた。
そんなカインの頭痛に気づかないセシルは「本編の兄さんは部下は居ても仲間がいないから、カオス側で友達ができるといいんだけどなぁ。エクスデスと並ぶと白と黒で初代のプリキュアっぽいし、なんだかクワ方とカブトムシみたいで面白いから、この二人で仲良くなればいいのに」などと呑気な発言をしながら、記事を眺めつつ発売日を心待ちにしている様子。
「あっ、ほらこの技のサンプル画像の兄さんって、技が決まってやったぁ!ってはしゃいでいる感じでかわいいよね。勿論僕も反撃するのに手加減なんてしないけどさ」
その言葉を聞いたカインは、回りの連中は壮大な兄弟喧嘩に巻き込まれてさぞかし迷惑だろうと思うのだった。
オニオン「ねーね、バッツって色目って技を使えるんでしょ? いいなー、僕にも教えてよ」
バッツ「待て待て、面識のない相手を魅了し動けなくするから、使える奴と使えない奴、向き不向きがあるんだ。性別問わずのそういう色気があるとか、踊り子要素があるとかのな。このメンバーなら…」
ぐるりとメンバーを見渡したバッツは一人一人の顔をまじまじと見つめながら何やら考えている様子。
バッツ「まず、クラウド」
クラウド(なんで女装した事をこいつが知ってるんだ…)
バッツ「性格的にはジタンも向いてるな」
ジタン「色気あるんだ、やった!」
バッツ「あとは…セシルかな…」
バッツの言葉に全員が信じられない顔でセシルに視線を集中させる。見つめられたセシルは恥ずかしいのか、顔を覆うばかりか一切の肌の露出がない暗黒騎士の姿へとチェンジしてしまった。
スコール「生真面目なセシルが色目を使えるとは思えないんだが、その色目とやらの実力はどの程度なんだ?」
バッツ「試しにやってみようか? んー…一番効き易いのはフリオかな」
ティーダ「マジっスか。男にも効くんだ!?」
フリオ「面白がるなよティーダ。さすがに男からの色目は食らいたくない…そうだ、ティナに使ってみてくれ。動けなくなるだけなら問題ないだろ?」
ティナ「私? いいけど…」
バッツ「うっ…ティナは…一番効きにくいタイプだけど…ええい、踊り子アビリティ、色目!」
バッツから熱い流し目の上にウインクまで寄越されたものの、ティナはきょとんとした顔をしているだけだ。
バッツ「…やっぱり、ダメだぁ」
ティナ「ごめんなさい、私、そう言うの分からなくって…」
謝るティナをオニオンとジタンが両サイドから慰め、残りの皆はなーんだそんな程度なのかとがっくりして色目という能力に興味を失ったようだった。ほっとしたセシルは元の聖騎士姿に戻ったが、その肩をぽんと叩く者が。
見れば背後にウォーリアオブライトが立って、無言でうんうんと頷いている。
セシル(僕がバロンの城下町で踊り子と一緒に踊ったり、パブ王様で踊り子に囲まれた事も、この人は全部お見通しなんだな…)